「一票の格差」と日本の民主主義
(小論文時事問題)


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2014年12月14日、第47回衆議院議員総選挙(以下、衆院選挙)が実施される。今回は、消費税増税先送り法やアベノミクスに対する国民の声を聞くための解散選挙だと言われている。同時に、今回の衆院選挙においても「一票の格差」問題が解決していないという指摘もある。ちなみに、過去2回(2009、2012年)の衆院選挙は、最高裁が「違憲状態」判決(「違憲」判決の一歩手前)を出している。ここでは、「一票の格差」問題に対して解説と国際比較をし、解決案を模索する。

 「一票の格差」問題と解決への試み

「一票の格差」問題とは、選挙において有権者が投じる一票の価値が、不平等となる問題である。有権者数の多い選挙区に比べ、有権者数の少ない選挙区では少ない得票数で当選が可能である。もちろん、人口の増減や投票率によって有権者数が常に変動する為、「一票の格差」を完全に無くすことは不可能である。日本においては、「一票の格差」が2倍を超えないよう、選挙区の整理や法改正が度々行われている。しかし、「一票の格差」問題の解決は簡単ではない。現在でも衆院選挙は2倍強、参院選挙では5倍前後の「一票の格差」があり、最高裁は6回の「違憲状態」、2回の「違憲」判決を下している。

このような「違憲状態」を解決するため、今回の衆院選挙では一人別枠方式の廃止と、小選挙区の0増5減が適用される。一人別枠方式とは、47都道府県に1議席ずつを別枠として割り当て、残る議席を人口比率で分配する方式である。本来は人口の少ない地域に配慮した方式であったが、「一票の格差」の要因となっていたため、2012年11月に廃止が決まり、今回の衆院選挙から適用される。同時に、小選挙区を5つ削減する0増5減をすることで、「一票の格差」を1.998倍にまで押さえることに成功した。しかし、これはあくまでも2010年時点での国勢調査に基づいた数字である。2014年現在、最大格差は既に2.109倍になっていると、住民基本台帳から試算されている。さらに比例代表を30議席削減するという案もあるものの、根本的な解決だとは見なされていないのが現状だ。

 「一票の格差」か「地域格差」か

だが、「一票の格差」を是正することは、過疎地域の声が政治に届かなくなる危険性をはらんでいる。たとえば、人口の多い神奈川県横浜市は8つの小選挙区を持つが、これは人口の少ない鳥取、島根、高知、徳島の4県合計の小選挙区と同数である。4県合計の人口が290万人であるのに対し、横浜市はそれを大きく上回る人口370万人を抱えている。「一票の格差」を是正する為には、むしろ横浜市により多くの小選挙区を割り当てる必要があるのだ。急速に進む地方都市の過疎化により、この「地域格差」は益々拡大することが予想される。むしろ、「地域格差」が地方の過疎化を進行させる要因ともなりえる。

また、衆院選挙における小選挙区を減らして比例代表を増やすことも現実的ではない。人口の少ない地域は今まで以上に独立性を失うからだ。国土がある程度広く、都市と地方の人口格差の大きい日本において、「一票の格差」と「地域格差」は対立せざるを得ない。

しかし、地方が優遇されすぎているという批判も同時に存在する。たしかに、一票の価値が重い地方自治体は、政府からの公共投資額が多い傾向がある。地方の声に政府が左右され、都市部の犠牲を強いてしまえば、民主主義国家とは言えないだろう。イギリスでは、「一票の格差」が大きい地域を腐敗選挙区とまで呼んでいた。とはいえ、「一票の格差」は、法の下の平等だけをもって議論できるほど単純な問題ではない。

 海外における「一票の格差」

では、「一票の格差」はどの程度に留めるべきなのだろうか。現在の日本では、「一票の格差」が2倍を超えることが、違憲状態の判断基準となっている。1人が2人以上の票の価値を持つことがおかしいという考えからだ。しかし、先進諸国の「一票の格差」の判断基準は、多くの場合日本よりも厳しく設定されている。先進諸国の多くは、全国平均の上下10~25%(1.22~1.5倍)を「一票の格差」の基準としている。さらに、イタリア、オランダのような小規模国は全国一区の比例代表制であり、「一票の格差」そのものが存在しない。

先進諸国で「一票の格差」を低く保てる理由の1つは、下院と上院の性質をはっきりと区別しているからだ。下院は国民全体の代表であり、「一票の格差」は民主主義の敵として厳しく管理される。それに対して上院は各地域の代表であり、「地域格差」を生み出さないことを保障している。たとえば、アメリカでは各州2名の上院議員が選挙され、70倍を超える「一票の格差」があっても問題にすらならない。ただ、国によって下院と上院の力関係は異なっており、同等の権限を有する(イタリア、フランス)、上院が強い(アメリカ)、下院が強い(ドイツ)などがある。

 「一票の格差」問題の処方箋

「一票の格差」問題を解決するためには、選挙制度改革よりも、政治体制の改善が効果的である。どれだけ小選挙区の割り当てを調整したとしても、「地域格差」問題があるかぎりは根本的解決にならないからだ。今まで議論してきた内容から、2つの解決策が考えられる。

1つ目は、参院を地域代表の議会とすることだ。参院は「一票の格差」を考慮せず、都道府県単位または地方単位で平等な議員数に規定してしまうのだ。そうすれば、衆院は「地域格差」を気にすることなく、平等な選挙に集中することができるだろう。ただし、現在の衆院の利権構造が大きな障壁となるため、大規模な改革が必須となる。

2つ目は、地方自治権を拡大することだ。より小さな政府を作り、各地方が自由裁量で自治権を行使すれば、「地域格差」は自己責任となる。同じ文脈で、日本に道州制を導入することも1つの方法となるだろう。ただし、長引く不況で大きな政府を作らざるを得ない日本にとっては、経済面のリスクを慎重に検討する必要がある。

上記のような解決策は、憲法改正を含めた戦後最大級の政治改革が必要不可欠である。「一票の格差」問題の根本は、突き詰めてみれば日本の国家体制と憲法にあるのだ。そこにメスを入れて初めて、日本は民主主義を確固たるものにできるのかもしれない。

 

<参考文献>

2014解散総選挙に関してのコラム

2012年衆院選挙の「違憲状態」判決

「一票の格差」に対する一橋大教授のコラム

「一票の格差」問題に対する報道(読売)

「一票の格差」問題に対する報道(日経)

「一票の格差」問題に対する報道(朝日)

「一票の格差」の国際比較