ここ数年、沖縄に関連した報道が新聞のトップを賑わす機会が増えてきている。それも、中国漁船による尖閣諸島沖領海侵犯、国・県の政権交代で右往左往する普天間基地移設問題など、県レベルを超えた国際問題が中心だ。直近では2015年2月22日、与那国島への自衛隊基地設営の是非を問う住民投票が行われ、賛成派が競り勝った。このような沖縄に関する諸問題に対し、メディアの左右両極端の舌戦が繰り広げられており、中立的な情報を得ることが難しい。ここでは特に沖縄米軍位置問題に関して、経済、軍事、イデオロギーの3要素を軸に解説したい。
泥沼から抜け出せない、全国最低レベルの沖縄経済
沖縄は、全国最低レベルの経済格差問題を抱えている。例えば、貧富の差を示すジニ係数は0.339と全国1位(2009年度)である。非正規雇用者の割合も2011年に40.8%で全国1位だ。大きな産業の無い地方都市であるため、雇用が少ないことはある意味仕方ない。しかし、沖縄には経済的弱者しかいないという訳ではない。年収1000万以上の納税者の割合が10.2%で全国9位(2006年)なのだ。上位は東京や大阪などの大都市が占めていることを考慮すれば、沖縄は地方都市として異常なほどに富裕層が多い。さらに、官民給与格差も大きく、訴訟に発展するほどである。2004年度の公務員(県職員)平均年収722万円は、同年度の民間(県内給与所得者)平均年収340万円の2倍であった。これは、公務員の給与が高すぎるのではなく(沖縄県職員給与は全国最低レベル)、民間の給与が低すぎることを如実にあらわしている。このような全国最低レベルの経済格差には、大きく2つの原因があると言われている。
1つ目は、沖縄経済の米軍基地依存である。例えば、米軍基地関連の経済規模(米軍基地関連投下額)は約3300億円であり、県内総生産3.7兆円の約9%を占めている(沖縄県議会事務局2010年発表)。別の試算においても、米軍基地関連の経済規模は年あたり2000億円以上、県経済の5%以上となっている。不労所得としての沖縄全基地(米軍・自衛隊)借地料だけで、年間900億円もあるのだ。話題になることの多い普天間も、街中に基地が設営されたのではなく、経済を生み出す基地を中心に街が形成されたのだ。この米軍基地依存体質が、米軍基地周辺地域とその他の地域における、大きな経済格差を生み出している。
2つ目は、沖縄経済の政府振興予算依存であり、むしろこちらの影響の方が格差社会形成に寄与していると言われている。沖縄は米軍基地という危険を抱え込む見返りに、政府からは毎年約3000億円の振興予算を得ている。さらに振興予算の大部分が紐付き(使途を政府が決める)予算ではなく、沖縄県の裁量で動かすこと優遇措置が与えられている。このため、県予算は政府頼りとなり、自主財源比率も30%以下で全国最低レベル(全国平均約50%)だ。この県予算が公共事業に投じられるため、沖縄の富裕層は建設業だと言われている。実際、沖縄の全産業における建設業の割合は、全国一位である。普天間基地の辺野古移設も5000億円規模の公共事業であり、県内移設か県外移設かは沖縄建設業界の死活問題である。なお、政府から沖縄への支援予算は、現在までで総額11兆円にのぼると言われている。このような沖縄県実体経済を無視した振興予算は、県内産業の空洞化を引き起こす。誤解を恐れずに言えば、実を結ばない途上国への経済支援と、沖縄振興予算は同質なのだ。
以上のように、沖縄は米軍基地と政府振興予算の二重依存体質を抜けない限り、全国最低レベルの経済格差問題を解決できないのだ。
国防の要、東アジア防衛の要、沖縄
この二重依存体質を生み出したのは沖縄米軍基地である。では、何故沖縄に米軍基地が必要なのか。日本の米軍基地の74%が沖縄に集中している理由を、軍事的な観点から解説したい。
そもそもアメリカにとって、沖縄は戦略上の重要拠点である。近年、東アジアの緊張が、かつて無いほど高まっている。特に、軍事力を着実に増強させる中国と、核ミサイル開発を進める北朝鮮が東アジアの脅威と言える。沖縄の米軍基地は、日本本土、朝鮮半島、台湾からそれぞれ約1000キロメートルに位置している。戦闘機の行動半径が1200キロメートル以内であることを考慮すれば、有事に即応可能な沖縄の米軍基地は、戦略上欠かすことのできない位置にある。中長期的には米軍本隊の中継基地ともなるため、沖縄の米軍基地は、東アジアの軍事的抑止力として有効に機能している。ただし、アメリカが東アジアへの影響力を維持するための意味合いも強く、日本の国防と必ずしも合致する訳ではないことを注意しなければならない。
日本の国防という観点から見れば、尖閣諸島に圧力をかける中国への抑止力強化が必要とされている。近年、中国は周辺諸国(日本、ベトナム、フィリピン、韓国など)との領有権を、一方的に問題化させている。例えば、東シナ海・南シナ海では中国漁船の領海侵犯、巡視艇への体当たりが繰り返されている。さらに、中国が実効支配するフィリピン領南沙諸島では、中国の空軍基地が建設中だ。そのうえ、中国は日本・韓国領の一部を防空識別圏として一方的に設定し、国際的な非難を浴びても意に介していない。日本だけに限っても、尖閣諸島沖では海上保安庁巡視艇に対する中国漁船の体当たり、小笠原諸島周辺海域に大量に押し寄せたサンゴ密漁中国漁船など、枚挙に暇がない。これらを中国の軍事的領土拡大と見るかは意見の分かれるところだが、中国による東アジアへの影響力拡大に貢献していることは確かだ。アメリカが尖閣諸島を日米安保の範囲内と宣言したとはいえ、アメリカの事情次第でどう転ぶかは不透明だ。日本政府による尖閣諸島防衛と中国への抑止力強化の必要性は、日増しに高まっている。
そんななか、2014年に尖閣諸島に程近い与那国島へ、自衛隊基地設営が決まった。この意図は、当然、尖閣諸島防衛と中国への抑止力強化である。これに対し、2015年2月22日にその是非を問う住民投票が行われた。この際、基地反対派の提案により中学生や永住外国人まで投票の対象となり、物議を醸した。この住民投票は、最終的に基地賛成派が上回る結果となった。住民投票に法的拘束力が無いとはいえ、自衛隊基地設営は順調に滑り出したのだ。ただし、与那国島の基地賛成派が上回った理由は、国防よりも過疎化防止や自衛隊関連収入などの経済的要因が大きかったと言われている。与那国島が中国の領海侵犯が繰り返される国境地帯にありながら、40%を越える基地反対派がいるほど「国防」の観点が不足している。その理由は、沖縄特有の反日イデオロギーにあると考えられる。
沖縄に根付いた反日イデオロギーの起源
沖縄特有の反日イデオロギーを理解する為には、まず明治期に行われた琉球処分について知る必要がある。そもそも江戸時代の沖縄は、薩摩藩の支配を受けつつも独立自治を保障された、琉球王国として存在していた。諸説あるものの、琉球王国は封建的奴隷制に近い状態にあり、特権階級である支配層の士族(サムレー)が被支配層の百姓(ハルサー)から搾取する構造があったと見られている。明治期に入り、近代化を目指す明治政府は廃藩置県を実施し、その一環として琉球王国の解体―いわゆる琉球処分が実施された。解体を拒む琉球政府に対し、明治政府は軍事力を背景に強引に琉球処分を行った(ただし武力衝突は無し)。この琉球処分の目的は搾取構造の解体と近代化であったため、非支配層のハルサーには歓迎された。逆に、一方的に特権階級から追い出された支配層のサムレーは反発し、清国に助けを求めるなどひと悶着があった。その影響もあってか、明治政府による沖縄近代化は中途半端に終わってしまった。この琉球処分により、沖縄県民に潜在的な反日感情の種が蒔かれることとなった。
時は流れて第二次世界大戦後、GHQはこの潜在的な反日感情を政治利用し、沖縄統治をスムーズにしたと言われている。GHQ統治が始まってすぐに、80年ぶりに「琉球政府」を復活させたのだ。それは、沖縄が琉球処分によって植民地化されたという反日感情をあおり、その解放を成し遂げたアメリカを正当化、親米感情を高める宣撫工作だったと言われている。そこで大いに利用されたのが「琉球」のキーワードであった。当時、GHQ主導で琉球立法院(議会)、琉球銀行や琉球大学など、「琉球」の名を冠する公的機関が相次いで作られた。これも、その宣撫工作の一環だったと推測されている。
1972年の沖縄返還後、この反日感情が日教組と左派マスコミに利用され、現在の反日イデオロギーへと変身していった。70年安保闘争直後の日教組と左派マスコミは、GHQ統治を受けていた沖縄を、最重要戦略拠点として認識したのだ。返還後、沖縄に流入した日教組は徹底した反日・反米教育を主導し、左派マスコミも反日プロパガンダを展開した。わかりやすい例が、「日本軍が強制した沖縄の民間人の集団自決」に関する内容だ。日教組は「平和学習」という授業を設定し、日本軍が沖縄の民間人を抑圧し、強制的な集団自決に至ったと教育している。また、沖縄の二大新聞である琉球新報は、「集団自決に日本軍の軍令はなかった」ことを実証する連載の掲載を拒否し、「表現の自由」侵害として訴訟問題となった。ちなみにこの訴訟では、「集団自決への日本軍の強制」への判断は避けつつも、「表現の自由」を侵害した琉球新報に損害賠償を命ずる判決となった。また、日教組・左派マスコミは総じて親共・親中的である。そのため今日ではGHQよりもさらに歴史をさかのぼり、朝貢国家・琉球王国として、中国との歴史的繋がりが過度に再評価されている。これに乗じて、中国は沖縄への影響力を強めつつあるのが現状だ。
クリミア併合から学ぶ、沖縄米軍基地問題解決の方向性
ここで、2014年のロシアによるクリミア併合を振り返ってみたい。
実はクリミアは併合以前より、既にロシアに経済、軍事、イデオロギーの三要素を抑えられていたのだ。まず、クリミアは経済の大部分をロシアに依存していた。これは現在紛争中のウクライナ東部地域にも共通しており、あらゆる産業がロシア資本・ロシア資源頼りだったのだ。さらに軍事面においても、ロシアに貸し出されていた軍港セバストポリがネックであった。2014年のウクライナ政変後すぐに、ロシアはセバストポリを通じて「ロシア系住民保護」のために軍隊を派遣し、クリミアを実効支配したのだ。この軍事行動がスムーズに進んだ理由の1つは、18世紀に端を発する親露的な歴史的背景だった。さらにロシア実効支配後には情報統制が実施され、親露プロパガンダが徹底された。このように経済、軍事、イデオロギーの三要素をロシアに掌握されていたクリミアの住民投票は、ロシア併合を選択する結果となったのだ。
そのため、沖縄米軍基地問題においても経済、軍事、イデオロギーの三要素を、他国に握らせる事態は避けなければならない。特に現在、この三要素に着実に手を伸ばしつつある中国を警戒する必要がある。そのためには、一旦はアメリカと協力して沖縄米軍基地問題解決の枠組みを作る必要性がある。しかしアメリカも、自国益を日本国益より優先するのは当然であり、今後どのような日米関係、東アジア情勢になるかは未知数である。だからこそ将来的にはアメリカからも自立し、日本政府と沖縄が協力し、経済、軍事、イデオロギーの三要素を確保することが望ましいのだ。
<参考文献>
与那国島の自衛隊配備の是非を問う住民投票
photo: http://kinjo-tatsuro.net/